いつの間に、お前はここまで大きな存在になったんだ。


「なぁ」

「ん?」

「・・・行くのか」

「どうしようかなぁ」



それなのにはいつもと変わらない気さくな笑みを零して、髪を風になびかせた。綺麗なその髪は太陽に透き通って輝いた。思わず見とれていた目を逸らして、船の先を見る。

が船に乗ってきたのは、つい3ヶ月前のことだ。向かいから小さな船が、それはもう本当に小さくてボロボロの船が流れてきたと思ったら、そこに力なく女が横たわっていた。このままじゃメリー号にとぶつかって壊されてしまうので、船長の命令で仕方なく船に引き上げた。
小さく、呼吸をしていた。

チョッパーとコックの看病でみんなが見守る中、目を覚ましたそいつは起き上がるなりコックの料理をばくばく食った。それこそルフィに劣らねぇくらいにばくばくと。それから何回もありがとう、ありがとうって笑みを零した。
おもしろいやつだな、ってルフィが言ったからみんな嫌な予感はしたんだ。こいつは自分の気に入ったやつを見つけると、口癖のように言う言葉がある。まさかと思った次の瞬間、予想通りその言葉を口にした。



「お前、仲間にならねぇか?」

「うん」



えっ、て声が全員そろった。
即答しやがった、なんて図々しいヤツだ、怪しい、何か企んでるに決まってる。鼻から人間を信用する気のねぇオレは気が重かった。なんでこんなやつ船に乗せるんだルフィ。
でも、船長命令。みんなぶつぶつ文句を言いながらも、あのボロボロの船に弱ってるこいつを置いて行くわけにもいかず、仕方なく了承した。
すると



「え、冗談なのに。誰もつっこまないの?」

「・・・」



ぬけぬけと、ルフィによく似た悪気のない笑顔をみんなに向けた。みんなはため息しか出なくて、反対に笑みさえこみ上げてきた。



「ぷ、あんた、あの船に戻るつもりでいたの?」

「うん」

「見なさいよあの船。もうぼろぼろで沈んでいってるわよ」

「うっそ!」

「何があったのよ?くく、島流しみたいね」

「・・・島流しかも」

「えっ!?」

はそういえばみたいな言い方で、そういわれるとそうかもなぁってまた笑顔で言った。

「島流しってあんた、何があったのよ?」

「うーん・・・話すと長くなるよ」

「まとめて!何よ?」



の話した話はこうだ。

あのね、私悪魔の実の能力者なの。詳しいのことは分からないけど、時々能力が出るんだよね。なんか念力?みたいな。思いが強いと能力が出るみたいなんだけど。ある日村でちょっとした事件が起こって、能力使ったらみんなから嫌われちゃって・・・お前は出て行けーってさ、この小さな船に乗せられて海に流されちゃったの。でも私よく意味が分かってなくて・・・けど、周り海じゃない?悪魔の実のせいで泳ぐこともできないし、仕方なくそのままにしてたんだけど・・・嵐とか、海王類とか海賊とかにあっちゃって・・・もう疲労でぶっ倒れてたんだけど・・・そんな時に貴方たちが!本当にありがとう!

って言って土下座をした。



「みんなの前で・・・何したのよ?」

「いやぁ・・・ちょっと子供を助けただけなんだけど」

「助けた?なんでそれで島流しなのよ」

「普通に助ければよかったんだね、きっと。子供を宙に浮かせるなんて、能力者じゃなけりゃできないでしょ」

「それにしたって・・・ひどいわ」

「仕方ないよ」



そういってにっこり笑った。能力者はこんな運命で当たり前だっては言った。やっぱり、笑顔で。



「じゃあ、どこでもいいから、大きな島まで乗せてくれないかな?島流しにされないような、平和なところ」



冗談で言ったつもりだろうが、みんなは笑えなかった。



「分かったわ。仕方ないわね・・・でも、いい人そうだからいいわ。念力なんてなんかすごそうだし。名前は?」

っていいます」



これが、始まりだった



毎日毎日色んなヤツのところにちょこちょこ行って、いつの間にかこの船に慣れ親しんでいた。



「ねえ、ルフィ、ウソップ」

「ん?」

「コックさんのマネ。ナーミすわぁーん!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ」



馬鹿みたいだ



「ナミっちゃーん!」

「何よ?」

「何のお仕事?」

「蜜柑を収穫してるのよ」

「手伝うよ」

「ええ、ありがとう」

「・・・」

「何食べてるのよ!」



馬鹿みたいだ



「チョッパーくん」

「な、なんだ?」

「怪我しちゃった」

「・・・仕方ねぇなぁ、何やってたんだよ?」

「チョッパーくんの角で遊んでたの」

「・・・」



馬鹿みたいだ



「コックさん!」

さん!なんですか?」

「お腹減ったな」

「おぉ!これ、昨日の残りですが小腹にどうぞ」

「ありがとう」

「・・・」

「お腹減ったな」

「・・・今、作ります」



馬鹿みたいだ



「ロビンちゃん」

「あら、なぁに?」

「腕相撲しよ」

「・・・」

「ロビンちゃんズルイ!」

「あら、ごめんなさい。つい」

「私強いでしょ!」



馬鹿みたいだ



「ねえ、ゾロ」

「あ?」

「何してるの?」

「別に、何も」

「ゾロ私のこと嫌い?」

「・・・は?」

「恐い顔してる」

「元からだ」

「あは」

「何だ」

「ゾロおもしろいね」

「・・・」

「眉間に皺っ」



とん、って人差し指がオレの額を突付いた。自然と、眉間の皺がなおる。



「ねぇゾロ」

「あ?」

「ちょっとここで休憩していい?」

「・・・きついのか」

「はしゃぎすぎたかな、こんなに面白いの久しぶりで」



にひひ、って笑う。やめろ、笑うなよ。なんでお前は笑うんだ?違うだろ?お前は、本当は



「笑うな」

「え?」

「そうやって、誤魔化すな」

「・・・ちょっと、隠してくれる?」

「・・・おう」



はオレの背中で、小さくなって泣いた。誰にも見えないように、そっと泣いた。でもみんな気付いていた。
そんなことがあって、悲しくないやつなんていねぇだろ。本当はずっと泣きたくて、たまんなくて、もし笑顔を作らなかったら涙が出るから、お前は笑っていたんだろう。



「ありがとう」



小さく、呟いた。かろうじて聞こえるくらいの声だった。さっきのとは違う。とてもか細くて貧弱な、でも叫んでいるような、訴えているような声だった。オレは何も言えずにただ刀を磨いていた。


それから、長い長い航海。何島か島に行ったがとても平和とはいえねぇ島だった。は島に着くたびここでいいよって言うが、みんなここは駄目だと口を揃えて言った。でもなんだかんだ言って、別れが恐いだけだ。

でも、今度は違う。文句のつけようがないくらいに平和な島だ。なんなら全員、この島に留まっていたいくらい幸せな島だった。船がこの島に着いて5日目。誰もとの別れを切り出そうとはしなかった。これが本当に最後かも知れないと分かっているから、船は出発を避けていた。いつまでもこの島にいるわけにはいかねぇのは分かっていたが、誰も口に出す勇気はなかった。

そんな時、船の見張りをしていたオレの隣に(本当は船の見張りなんて必要ねぇが、島に行っても何もすることがねぇのでそう言って船にいた)がきた。
その行為はとても自然に、ふわりと、風のようにオレの隣に座った。何も言わずに、海を見つめている。沈黙に耐えられなくなって、誰も言えなかったことを口にした。



「なぁ」

「ん?」

「・・・行くのか」

「どうしようかなぁ」



やめろよ、って言って抱きしめたかった。その小さな体を。頼りない肩を引き寄せて、どうしようもない暖かさを、そっと髪を撫でて、懐かしい香りを。



「ゾロは、どうしてほしい?」

「・・・オレじゃねぇだろ。こういうことは、自分で決めろ」

「うん・・・」



ただ、っては言いかけて止めた。ただ?なんだ。



「・・・明日には、決めるよ」

「・・・おう」

「だから明日、出航してね」

「そういう相談は、船長にしろ」

「うん」

「ねぇゾロ」

「あ?」

「手、貸して」

「・・・おら」



ぶっきら棒に手を差し出すとはその手を取って、そっと上から重ねた。そしてそのまま、オレの肩に体をゆだねた。



「寝ていい?」

「・・・ああ」

「おやすみ」



いつも、いつの間にか、オレとは一緒に昼寝をするようになっていた。だからかも知れない。深く話したことはない。ただ、オレが寝る時間になるといつも寄ってきて、一緒に寝る。その無防備な寝顔を見るたび、何回抱きしめたい衝動にかられたか。本当は、本当はずっと、



「・・・いたぃ」

「・・・」

「ゾロ?どうしたの?」

「・・・

「・・・」

「行くなよ・・・」

「・・・」

「・・・悪い、どうかしてた」



オレは無理矢理抱いたの体をそっと離すと、その場にいるのがいたたまれなくなって、島に行った。を残して。がどんな顔をしていたか分からない。顔なんか見る余裕さえなかった。あげくにを一人で残して逃げてきたなんて、



「かっこ悪ィ」

「何がかっこ悪いのよ?」



オレの独り言に背後から反応するナミ。さっきから気配は感じていたが、からかうように話しかけてくる。



「一人で何してるの?は?」

「船だ」

「へぇー・・・あんた何かしたの?」

「な、何もしてねぇ」

「もー・・・だから駄目なのよ!は待ってるわよ、絶対」

「・・・待ってなんかいねぇ」

「え?」

「明日出航してほしいんだと。お前ルフィに言っとけ」

「え?明日?」

「・・・あいつはもう、自分の中で答えが出てるんだよ」

「・・・」

「・・・」

「・・・慰めてあげようか?1億万ベリーで」

「結構」

「でも、そう・・・それなら仕方ないわね。ルフィがなんて言うか・・・あいつよっぽどのこと気に入ってたから」

「・・・その時は、オレが説得する」

「確かに、あんたに説得されたら何も言えないわね」

「・・・」

「いいの?」

「いいもなにも、が決めたことだ」

「はぁ・・・意地っ張りはこれだから困るわ。後から泣いても知らないから」

「泣かねぇよ」

「そ。じゃあ私は船長に出航の話をしてくるわ」

「あぁ、頼んだ」

「あんたは、船に戻りなさいよ」

「・・・」

「じゃあね」



船に戻るとの姿はなかった。それから夜になって、馬鹿みたいに騒いで、次の日が来た。オレはあれからと一言も話していない。船は、まだ動いていない。全員がの顔を見ている。



「えーと・・・」



はちょっと困ったように目線を逸らしたが、きちんと前を向いた。そして、いつもの笑顔。いつもの、屈託のないあの、


「いってらっしゃい」


一言言うとは船から飛び降りた。たん、と軽い音。



「なんでだよ!」



ルフィが叫んだ。だけどみんな船に帆を張って、出航の準備を始めた。オレも碇をあげた。オレは、の目を見れないでいる。



「ごめんね」



にっこりと、ルフィによく似たその笑みを零す

「一緒に行こうぜ、!海は広いぞ、まだまだ色んなことがある!一緒に冒険しよう!」

「・・・ごめんね」

「・・・っ・・・ゾロ!お前も嫌だろ!?なんとか言えよ!」



ルフィに呼ばれて、つい顔が向いてしまった。反射的に、の顔を、目を、見る。



「・・・っ」

「ゾロ・・・」

「お前、なんて顔してんだ」

「え?」

「誰がそんな顔しろって言った・・・」

「・・・」

「笑うな」

「っ・・・」



はそれでも、笑顔を崩さない。ただ、今にも崩れ落ちそうだ。今にも、涙が溢れる。



「来いよ」

「ゾロ!?」



ナミの驚く声。でもオレは話すのをやめない。




「オレの背中で、泣け」

「・・・」

「来い、オレ達と一緒に」

「・・・行き、たい」



のその声は本当に小さな声だった。船はもう進んでいるので、普通なら聞こえない。ただ、この船に乗ってるヤツ全員に、今の声は届いた。の、小さくて頼りのない、声。

その瞬間にルフィの手はへと伸びた。ぐいっと、乱暴だがを船の上へ。ルフィの腕の中にいるを奪い取って、抱きしめた。本当は、ずっとしたかった。
その姿にみんなため息をもらす。



「泣け」



するとはオレの胸の中で、すすり泣くように泣いた。みんなに聞こえないわけがないのだが、みんなに聞こえないようにそっと。一生、ここにいろ。そしてたくさん泣いて、たくさん笑ってくれりゃあいい。



「ゾロ、好き」

「あぁ。知ってる」



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