「お」

「・・・」

「おっす」





いつかのあのときのかれ





確かにこの顔は見たことがある。というか、少々思いいれのある顔だ。えーと、確か学校で・・・学校?

「久しぶり」

って、歩み寄ってくるかれ。誰ですか、なんて駄目だ。失礼すぎる。

「えーと・・・久しぶり」

なんて言ってるとそのかれはもう私の前にいて私の頭をくしゃっと触った。

「また背ぇ伸びた?いよいよオレより高くなったんじゃね?」


小さくて、華奢なその体。とても懐かしい衝動に駆られた。においも立ち振る舞いだって、一つ一つが重く圧し掛かるほど大切なものに思えた。

もう一度、改めて彼の顔を見る

「・・・汀目、俊希」

「なんだよ急にフルネームで。てゆーか今はもうその名前じゃねぇから」
「え、あぁごめん」
「や、謝ることじゃねぇんだけどな」
「ん?」
「いや、何でもねぇ。でもなー・・・懐かしいな」
「・・・うん」

でもまさか、声をかけてくれるなんて思ってなかった。立ち止まって、こっちを見て、歩み寄って、髪を触って、そんなのまるであの頃だ。

「・・・変わったね」
「ん?オレか?」
「俊希以外に誰がいんの」
「ま、そりゃそうだな。でも外見だけだよ、変わったのは。中身は変わんねぇ」
「それはいいことなの?成長してないってこと?」
「違いますー、まぁちょっとは成長したよ。精神的にも。卒業してから本当色々あったからな」
「へぇー。色々ねぇ・・・大変?」
「いんや、もう慣れたよ。」
「ふーん・・・え、じゃあその髪は白髪?」
「ふざけんなよ?いくらなんでもそこまで老け込んでねぇよ。脱色したんです、脱色!」
「なんでまた」
「かっこいいだろ?」

軽くポーズを決めてみる俊希を私は軽くスルーする
俊希が言った色々ってのは何なんだろう。って思ったけど今はそれを知る権利がないんだと思うと急に現実に引き戻された。

「耳も・・・じゃらじゃら」
「似合うだろ」
「不思議なくらい」
「ま、オレは何でも似合うけどな」

かはは、ってまた特徴的なあの笑顔を零す。胸の奥が締め付けられる感覚。ぎゅっと痛む。

「背も、少しだけだけど伸びた?」
「あぁ?少しじゃねぇよ結構伸びた」
「でも私より低くない?」
「・・・お前が成長しすぎたんだよ」
「まーね」

昔は背の順でお互い前から一番目

「体格も、少し男っぽくなったね」
「ん、そうか?まぁ男だからな」
「うん、そうだね」
「・・・」
「名前、何になったの?」
「・・・ぜ」
「ぜ?」
「当てて」
「ぜ?最初ぜ?」
「おう」
「ぜって・・・相当珍しいね」
「おう」
「銭河?」
「なんだそれ」

また、かははって笑う
なんだろう。なんでこんな気持ちになるんだろう。

「もういいじゃん。答え教えてよ」
「えー」
「やなの?なんで?」
「変な名前だからかな」
「笑わないよ」
「絶対?」
「絶対」

そこで俊希はふぅ、と短いため息をついた。そして顔を上げる。真剣な瞳。まるであの時の、終わりを告げたあの時の様な瞳。

「知ってた?」
「ん?何が」
「オレめっちゃお前好きだった」
「・・・」
「オレさ、中学とか義務教育だし、まぁ出席日数ギリギリ行って、テストでまぁまぁな点数取ればどうにかなんだろって感じだったじゃん?」
「うん」
「学校とか、あんま行かねぇしさ」
「うん」
「でも、好きだったよお前はほんと」
「・・・」
「ま、結局どうすればいいか分かんなかったから、あんま行かなかったけど」
「ふ」

俊希は私の髪を触りながら、時々目を合わせたり、そらしたりしながら淡々と話す
私はというと、俊希の変わった髪とか肩とか耳とかを順番に見てた

「学校に、お前みたいなやつがいることが不思議だった」
「えぇ?私変わってないよ?どこにでもいる普通のひと」
「いねぇよ。まぁ超平凡だけど、超平凡ってのはすごいことなんだよ」
「そう?」
「そーなの。ま、そんなこんなで汀目少年はどうしようもなくなり一言二言しか喋ったことのない少女に告白しました」
「はは、うん」
「まぁそのころ思春期だし、彼女がほしかったっていうのもあるけどな。こう、何人か候補がいて、まぁこの人がだめだったらこの人。みたいな」
「最悪」
「けど、お前は違った。てゆーかお前にだけ本気。ダントツ、一番最初に告る相手はお前で、もちろんだめもとだけどな。フラれたら立ち直れねぇくせに、汀目少年は告白したわけです」
「そしたら、OKだった」
「そ。もう汀目少年は死ぬほど喜んだね」
「はは、確かに」
「・・・そのときの、告白をOKした、お前の心情は?」
「・・・・・・学校なんて全然来ない不良少年で、でも何故かみんなの目をひいて一目置かれてて、でも自分は一言二言しか喋ったこと無くて、でも」
「・・・」
「でも、その一言二言は一字一句間違えずに覚えてた」
「・・・」
「別に好きじゃないし、胸が高鳴ったわけでもないけど、忘れられなかった」
「・・・」
「大切なものになる気がしたの」
「・・・なった?」
「うんすごく」

「『なぁ、これ何の集会?』」
「・・・『トイレで煙草が見つかったらしいよ』」
「『え、それだけ?なんだよーダルいな。来るんじゃなかった』」
「『・・・』」
「『なぁ、あんた背ぇ低いな。オレより低くない?』」
「『あんただって低いじゃん。あんたよりは高い』」
「『え、まじ?』」
「『まじだよ』」

「『なぁ』」
「『何よ。先生の話なんだから黙って聞きなさい』」
「『見て』」
「『ん?何?』」
「『アリ』」
「『外から入ってきたのかな』」
「『踏もうぜ』」
「『だめだって』」
「『つまんね』」

「・・・くだらないね」
「ほんと、くだらねぇ」
「え、これで好きになったの?」
「や、わかんねぇ。気がついたら超好きだったから」
「変なの」

「それから汀目少年はひたすらはっぴーでした」
「おしまい?」

「・・・汀目少年には家族ができました」
「・・・家族?」
「新しい、家族。家族かなんて認めちゃいねぇが家族だ。血のつながりはない」
「ん?・・・それは、お母様かお父様が離婚または再婚みたいなそういう・・・」
「のでは、ないです。とにかく、家族ができた」
「・・・」
「オレは自分の流れる血が人とは違うことに気付いて、一人になった。そのときにできたのがその家族」
「一人に、なったの?」
「・・・」
「私は、いなかった?」
「・・・お前は、オレにとって誰よりも大切だった。だからこそ、誰よりも自分から遠ざけたかった」
「それは、どういう意味?」
「・・・とにかく、それから汀目少年は前よりも学校を休むようになりました。その家族のせいで、あちらこちらに引っ張りまわされて」
「・・・」
「お前は、誰よりも幸せになってほしいんだよ」
「・・・ばかじゃないの」
「すいません、オレも若かったんだよ。それから、汀目少年は大切な大切な少女を手放し、二つ名を持ち、いや、名前を変えてこの血の流れるままに、生きていきました、とさ」
「おしまい?」
「汀目俊希少年のお話はね。汀目俊希はこの世にいない」
「・・・あなたの、名前は?」



零崎人識。 お前を死んでもせにすっから、また一緒にいてくれ







そう言ってかははと笑う人識のベストの内側に、光るナイフがたくさん見えたけど、私は変わらず人識を愛し続けることができると不思議と確信することができた







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