ここはどこだろう。あれ、おかしいな。私はいつも人識と一緒にいたはず。変だ、変だ、絶対変だ。人識がいないなんて、変。
そ し て 多 分 き っ と
どんどんどん。
無我夢中に、壊れるほどに、そのとても古い木製のドアを叩く。
「今出ますから、そんなに叩かないでください。」
その部屋の中から、困っているような、でも淡々とした声が聞こえてくる。
一安心。あぁ、そうか。それならいいんだ。
「どちら様・・・って、か。どうしたの?知ってるとおり、僕の家は骨董アパートなんであまり叩かないでほしいんだけど。」
「いっくん、いっくん、いっくん!」
「何、どうしたの?」
「おじゃまします。」
「・・・もう入ってるけど、どうぞ。」
「私、水道水はいらない。」
「いつも水道水だと思わないでほしいね。今日はなんと生ぬるい缶ジュースがあるよ。」
「じゃあそれを頂こうかな。」
飲みかけみたいだったそれをコップに注ぐいっくん。かすかにしゅわしゅわと反応を見せるそれはどうやら炭酸。こいつ・・・こんな真夏に生ぬるい炭酸ジュースをよこすのか。
今さら断るわけにもいかないので目の前に出されたそれを飲み干す。
「うえあ、まじ。」
「ちょうど処分に困ってたんだ、助かったよ。」
「ひどいよね、私が遥々会いに来たって言うのに・・・水道水をちょうだい。」
「僕はきちんと生ぬるいって言ったでしょ。」
「炭酸とは聞いてなーい。」
という、私の文句を聞き流して今度は水の入ったコップが目の前に置かれた。今度はちょっと、口に含む。とりあえずこの甘ったるい味を流さなくては。
「それで、どうしたの。遥々こんなところまで。って、今は京都にいるんだよな。」
「うん。特に用はないんだ。」
「用がないのにそれはまたなんで・・・」
「会いたいと思って会いに来ちゃ駄目なのかな?」
「まぁ・・・悪いとは言わないけど、あのノックの仕方は・・・僕が出かけていたら確実に壊れていたでしょ。」
「それもまた愛だね。」
私のキメ台詞をさらりと聞き逃しやがったいっくんは自分ものどが渇いたのか、私の目の前に置いてあるコップに水道水を継ぎ足しに行って、それをごくりと飲んだ。
さすが慣れっ子。水道水に抵抗がないのね。てゆーか間接ちゅーだよ、それ。どうしよー、私浮気しちゃったよ人識。
人識、人識?
あれ、人識はどこだろう。
「?どうかした?」
「え、いや、いっくんが間接ちゅーするからびっくりしたんだよ。」
「今さらそんなことできゃーきゃー言うガラでもないでしょ。」
「言うもん。乙女だもん。きゃー、いっくんと間接ちゅーしちゃった!ごめんね、友!」
「じゃあ僕も人識に謝らないと。」
「・・・人識・・・」
「ん?何?」
「と・・・友・・・友は!?」
「え、知らないけど。家じゃないの?」
「なんで一緒にいないの!」
「・・・言ってることが無茶苦茶だよ。」
「駄目なの、一緒じゃないと、駄目。友と、一緒にいて。いっくん、いてよ、一緒に。」
「あいつも忙しいのに、いつも一緒なんて無理だろ。」
「無理じゃない・・・無理じゃないよ!二人はいつも一緒なの!一緒にいないと、駄目だよ・・・。」
「どうしちゃったの?てゆーか、あいつは?こそいつもあいつと一緒じゃないか。」
「・・・友に、会いに行って。もう帰ってこなくていいから。」
「何それ。僕大学もあるし・・・いつも一緒なんて無理なんだよ。」
怖い、怖い、怖い。いつも一緒が無理?なんで無理なの?そこに愛があるなら簡単じゃない。なんでそうしようとしないの?なんで、なんで、なんで。
「・・・、もしかしてあいつと喧嘩でもしたの?」
「・・・してない。」
「じゃあどうしたの。は、いつも人識と一緒がいいんでしょ。」
「・・・うん。一緒が、いい。」
「じゃあなんでここにいるの?」
「・・・わかんない。」
「・・・記憶、ないの?」
「あるよ。走ってきたの、公園から。」
「なんで?」
「・・・いなかったから。人識が。」
「いなかった?」
「いなかった。」
「それは、はぐれたってこと?」
「はぐれた・・・?のかな。」
「そうじゃないの?」
「嫌・・・なのかも。人識、いっくんが言ったみたいに、ずっと一緒なんて、嫌・・・なの・・・かな。」
「・・・それは、僕には分からないけど・・・」
「ねぇ、どうしよう!もし、嫌だなんて言われたら・・・どうすればいいの?私、無理だよ・・・一人でなんて生きてけない。」
「は一人じゃないでしょ?」
「人識がいなきゃ・・・一人だよ。」
「大丈夫だよ。僕とあいつは違う。今頃を探してるよ。」
「本当かな?」
「うん。」
私は走り出した。出て行こうとした。人識を、探すんだ。でもいっくんは私の腕を捕まえた。
「ここにいたほうがいいよ。きっとあいつはもうすぐ来るから。」
「でも・・・」
「僕が言ってるんだ、大丈夫。」
「・・・うん。」
ああ、いけない。またいっくんに迷惑をかけてしまった。不安定でもろい私。ごめんねいっくん。大好きよ。人識の次に大好き。いつもいつも人識がいないとこうだ。何度迷惑をかけただろう。私の存在理由は、人識にあるんだ。
ああ、そっか。ここだ。ここが違うんだ。私の存在理由は人識だけど、いっくんの存在理由は友じゃなく、もっと、別の、たくさんのことなんだ。いっくんはそういう人だ。たくさんの人の愛をもらって、欲張りだけど、そのかわり、たくさんの愛をお返ししてる。私も、いくついっくんから愛をもらったんだろう。
「でも・・・友に会いに行って。」
「え?」
「た、たまにならいいよ。一緒にいたって。お互い、息抜きだって大事だし。友にとっても、いっくんにとっても、お互い、一緒にいれば、幸せなんだから。」
「・・・うん。たまには、会いに行くよ。」
「うん、そうして。ほら、友、あんまり放っておくと、髪の毛真っ黒になってるかもしれないよ!」
「それはありえるな。」
「行ってあげてね。」
「あぁ、暇ができたら行くよ。」
「約束?」
「うん、約束。」
私の出した小指と、いっくんの出した小指が絡み合って、離れた。瞬間。刹那。どーんっと、激しい破壊音。ドアが派手に壊れている。
「何してんだ、欠陥製品。」
「ちょっと浮気を。」
「解体されたいのかよ、欠陥製品。おい、!お前急にいなくなるなって・・・」
人識だ人識だ人識だ。
私はたまらず抱きつく。ひざをついて抱きつくと、ちょうど人識のお腹のあたり。伝わってくる鼓動がとても早い。息も切れていて、私のために走ってきてくれたのが分かる。
「うう・・・」
「まったく・・・」
「ひとしきいー」
「何だよ。」
「大好き。」
「知ってる。じゃあこいつ連れて帰るから。」
「うん、それじゃあね、。」
「オレにはあいさつなしかよ。」
「君には必要ないだろう。また会う予定もないし。」
「とはあるのかよ・・・てかさっきの約束はまさかその約束じゃねーだろうな。」
「さあ、どうだろうね。」
「・・・まあいいや。おい、。行くぞ。」
「じゃあね、いっくん。ありがとう、大好きよ。」
「僕もだよ。」
「何お前等。いじめですか。」
「もちろん人識が一番だから安心しなさい。」
「そりゃあよかった。ほんじゃ、また会うことがあれば。」
「うん。さようなら。」
がちゃん。壊れかけたドアを人識が無理矢理閉めた。ごめんねいっくん。きっとそのドアはもう寿命だったんだよ。
「まったく・・・心配かけんなよ。」
「心配した?」
「あ?何当たり前なこと訊ーてんだ。」
「もー、めっちゃ好き。」
「お前とは人ごみ行くもんじゃねーな。それにしても・・・ほんとはぐれたときは従順にあいつのところ行くのな。」
「気がついたらいっくんのところにいるんだよ。」
「お前オレが死んだらあいつのこと真っ先に好きになるんじゃねー?」
「そうかもしれないね・・・二番目に好きなのがいっくんだもん。」
「白状だな。こりゃ絶対死ねないな。」
「あー、でもいっくんには友がいるからなー・・・ライバルなんて嫌!」
「お前ほんとその友ってやつ好きな。」
「大好きだよ。いっくんと同じくらい。」
「じゃあオレが死んだらお前は誰も好きになれないのか。」
「いや、萌太くんもかっこよくてなかなか好きだよ。」
「それ以上男の名前を出すな。」
「自分で訊いた癖にー。」
私がむくれていると人識は鼻歌を歌いだした。(話そらしやがった)
手は、きちんとつないでる。
私の存在理由は人識です。愛しているんです、これ以上、これ異常ないくらいに。ずっと、片時も離れずに、一緒にいるんです。これからも、ずっと。死ぬまで。いや、死んでも。
そ し て 多 分 き っ と
From that...
A nonsense! plan "and surely" than lapis lazuli / Mio to send to you. Thank you.
nonsense!企画「そして多分きっと」君に送るラピスラズリ/みおより ありがとうございます。
背景画像大阪ラブポップ様より