全てが、愛であって下さい。
嘘でもいいなんて、嘘に決まってる
雨が降りそうな雰囲気だった。それがなんだか不気味で家まで走り出したくなった。あ、でも家には誰もいないんだっけ。そう、私の家族は死んだ。元は3人家族でお父さんと、お母さんと、私で幸せに生活していた。でも小さい頃にお母さんを亡くして、そしてつい最近。お父さんは連続通り魔に殺されてしまった。まだ犯人は捕まってないらしい。
恨みは、ない。不思議と。でもお父さんがいなくなって単純に悲しい、寂しいとかは思った。涙だって出た。なのに、仕返しだってもってのほかだし。捕まっても何をしに行くわけでもないと思う。
そして、いつもどおりに買い物に行って家に帰る途中。
変な人がいます。
「よぉ。」
「誰ですか。」
「んー、まぁしいて言えば殺人鬼?かははっ、全然しいて言ってねぇや。」
かわいらしい笑顔でずいぶんなことを言う殺人鬼。
自分で言ってるのだからそうなのだろう。この人が殺人鬼だ。きっと。この人が私のお父さんを殺したんだ。きっと。
「私も殺すんですか。」
「お前の話し方抑揚ねぇなぁ。誰かさんに似てるわ。おっと、そんなこといっちゃお前に失礼だな。」
「殺すんですか。」
「うーん…そのつもりだけど。」
「そうなんですか。じゃあちゃちゃっと殺っちゃって下さい。」
「お?いいのかよ。命は大事にしねーとバチ当たるぜ?」
「今まで大事にしなかったからバチが当たってるのかもしれません。」
「あー…そうだな。」
と、殺人鬼は私の体を見渡す。傷、傷、傷。自傷行為なんてした覚えがないのだが、朝起きると何故か傷だらけだった。お父さんがやったのかもしれないと思っていたけど、お父さんが死んだ今でも傷は増え続けている。
「何お前。自殺願望?」
「いや、そんなことは全然ないんですが。」
「なんだよ、その傷。」
今から殺すというのに、そんなことどうでもいいじゃないか。
「朝起きたら、こんななってるんです。どうやら寝てる間に自分で自分を傷つけてるらしいんです。でもきちんと手当てもされてて、不思議ですよね。」
「人事じゃねぇんだから。………ふむ。」
なにやら殺人鬼は考えているようだった。そしてしばらくするとどうやら結論が出たようでよしっと大きな声を出した。
「とりあえず兄貴のとこに連れてくか。」
「え?」
言っている意味が分からない。何故私が殺人鬼の身内の元へ行くのだろうか。
「私を殺すんじゃなかったんですか。」
「でもその傷の理由とか確かめねーと。成仏できないぜ?」
「成仏?」
成仏、と殺人鬼はうなずく。殺すくせに恨まれるのは嫌なのだろうか。ずいぶんと自分勝手だ。
「てゆーか、気になることあるし。」
「?」
「ほら、ついて来い。」
こいこい、と手を動かす殺人鬼。仕方がないのでついていくことにした。
すると殺人鬼は振り返り
「オレ零崎人識ってゆーんだ。お前は?」
ニヤニヤと不気味な笑顔をみせながら
「私はだけど。」
「ふーん…名前変えねぇとな。」
「はい?」
「や、それよりそれ重くねぇ?」
と、人識は私の持っている荷物を指差す。そういえば買い物の帰りだった。
「重たいです。」
「置いてくれば?」
「いいんですか?」
「別に。兄貴はすぐに見つかんねぇだろうし。」
「え。」
「ほら、行けよ。」
「はい。」
人識は私の後ろをついてくる。何この人。殺人鬼なんでしょう。
ちらりと、後ろの様子を伺ってみる。人識は周りのキョロキョロと見ている。目なんかあってないはずなのに、人識は
「心配しなくとも、殺さねぇから大丈夫。」
「え、はい。そういうことじゃないんですが。」
「何。」
「変な人ですね、零崎さん。」
「苗字で呼ぶなよー、人識ってよべ、人識って。」
「はぁ。」
「オレはいたって正常だぜ?異常なのは、お前でしょ。さん。」
「さんづけしないでほしいです。」
「了解。」
「この傷のことですか?」
「おーよ。本当に何も覚えてねぇのか?」
「はい。朝起きたら包帯とか巻かれてて、はずしてみると傷があるんです。」
「…ふーん…。」
「さっきからこのことばかり言ってますけど…何か?」
「や、もこっちの世界の人間かもなーと。」
「どういう意味です?」
「まぁそのうち分かる。」
「はぁ。」
さっきから意味深な殺人鬼。こっちの世界?殺人鬼の世界?
そこに、あるのは何。
しばらくして、家に着いた。玄関で待たせるのも悪いと思ってどうぞ、とドアを開けた。
「ちらかってますが、気にしないで下さい。」
「いいのか?」
「どーぞ、誰もいませんし。」
「それならなおさら。」
「どういう意味です?」
「は可愛い顔しちゃってるから、オレなんか家に上げて大丈夫と思うわけ?」
「…意味が、よくつかめないんですが。」
「……なるほど、そっちはうといのね。」
「そっちとは?」
「や、いいさ。じゃあ上がらせてもらいます。」
「はい、どうぞ。」
「にしても、一人暮らし?」
「はい。っていっても、なりたくて一人になったわけではないんですが。」
「何それ。」
「いないんです、身内。お母さんは小さい頃から。お父さんは、」
「何だよ?」
「殺人鬼に、殺されました。」
「……おれ?」
「さぁ。知りません。」
「じゃあオレはお前のかたきなんだな。」
「安心して下さい。人識さんを恨んだりなんかしてません。」
「なんで?オレのこと好きになっちゃった?」
かははっと軽く笑う殺人鬼。
「好き…に、なりたいですね。」
「…本気?」
「好きなんて感情、生まれてこの方味わったことないですし。」
「ふーん。」
「人識さんのこと好きになれればいいですが。」
「いいの?そんなこと言っちゃって。お兄さんドッキドキだよ。」
「ドッキドキですか。それもいいですね。人識さんは顔いいですし。」
「も可愛い顔しちゃってるな。いや、どっちかってーと綺麗かな。」
「どうもありがとうございます。」
「愛しあっちゃうか。」
「できればの話ですけど。」
「」
急に真面目な声。
何事かと思った瞬間に私は殺人鬼に引っ張られて壁に押さえつけられていた。
「嘘の愛もありじゃねぇ?」
「そうですかね。」
「ありだ。」
「ないですね。」
「ありだ。」
「ないです。」
「あり。」
「…もうどちらでもいいです。」
ここまで迫られて、逃げる方法なんてないだろう。
いいや、愛なんて。
最初から求めちゃいない。
でも。ちょっとだけ期待したところもあった。
今度こそ、愛せるかもしれないと。
「やっぱりないんだろ。」
「え。」
軽く、唇が重なり合った。
「愛してやるよ、精一杯。」
「本気ですか。」
「もちろん。」
「正気ですか。」
「当たり前。」
「たった今、会ったばかりですよ。」
「愛は時を越えるんだよ?」
「嘘じゃないんですか。」
「超まじ。」
「からかってませんか。」
「全然。」
「愛して、くれるんですか。」
「そう言ってるだろ。愛してやるよ、だからオレにも愛をくれよ?」
愛がほしいと思いました。
愛は手に入りませんでした。
だから、愛せませんでした。
嘘の愛なんていらないんです。知ってました。お父さんがわたしのことを嫌いだったこと。お母さんが自殺したこと。お父さんが愛していたのは私ではなくお母さんでした。お母さんが愛していたのは私ではなく誰か知らない人でした。だから私はいりませんでした。愛なんて、そんなもの、知りませんでした。
「私もあなたを愛してる。」
"It is decided on a lie that even a lie is good" The end...