どうしてこんな風になったとか、そういうものは全部どうでもいいと思った
ただ私が大切にしたいのは、しなきゃいけないのは、目の前にある今にも壊れそうな想いだと思った









烙印









きい、とドアが軋む音。小さな音さえも出しちゃいけないような気がして少しドアをゆっくりと閉める。それでもドアはぎこちない音と一緒にばたんと静かな病室に響いた

傍にいていいのか、なんてそんな疑問が浮かんでは消えた。ただ、私の我侭だった。傍にいるのは相手のためなんかじゃなく自分のためだった。
ただ彼の手を取って、名前を呼んで、暖かさを感じたかった。消えていきそうな彼の心を引き止めたかった。

「サスケ」

そう言ってサスケの手を取った。驚くほど冷たいその白い手は今までのサスケの手とは大違いで、か細くて頼りなくて、握ったら壊れてしまいそうなほど儚かった。夢じゃないんだと、サスケを見るたびに実感させられた。
サスケは、眠っているのだろうか。穏やかというには悲しすぎる表情を浮かべたサスケは静かに目を瞑っていた。もしかたら寝ていないのかもしれない。眠れないのかもしれない。少なくともサスケのその弱りきった体はとても毎日睡眠をとっているようには見えなかった。

しんとした病室に、静かに時計の音が響く。とめどなく時を刻む


ちくたくちくたく


時は私たちを置いて進んでいく


サスケの小さな吐息は時計の音にかき消されていく。それがどうしようもなく悲しくなって、私はサスケの胸に耳を当てた。小さく、脈打つ心臓の音も聞こえる。

「・・・重い」

ばっと顔を上げるとサスケの瞳が開いている。久しぶりに見たその瞳は深い色を持って離れない。サスケの想いのように悲しい、深い闇

「・・・久しぶり」

なんだか声を出すのが気が引けて、ただ声を絞り出した

「・・・久しぶりじゃ、ねえだろ」
「・・・」
「毎日、来てただろ」
「・・・」
「悪いな」

サスケは、ありがとうとは言わなかった。それはこの行為が私のエゴだと知っていたからだろうか。ただ罰が悪そうで、私の目を見ようとはしてくれなかった。

「なあ」
「・・・」
「何か、言えよ」
「・・・」
「言ってくれよ」

なんで、なんで私は今ここにいるんだろう。解らなかった。サスケが何かを望んでくれてるというのに、それに答えられない私はなんでここにいるんだろう。私は、サスケを守りたくて救いたくて、今此処にいるんじゃなかったんだろうか。



握ってたサスケの手に力がこもった。久しぶりに、握り返されてる、サスケの力の感覚。

「っ」

何か言おうとしても言葉が見つからなかった。どれもサスケを傷つけてしまうような、駄目にしてしまうような気がして軽々しく口に出せなかった

ただ、想うことは一つだけ

「好き」
「・・・」
「好きよ、サスケ」
「・・・」
「聞こえてた?ずっと、サスケの名前呼んでたよ」

ずっと、ずっと暗い闇の中でひたすらに叫んだ名前。心の中で、何も見えないまま、ただ大切なものを求めた。

「・・・ずっと、聞こえてた」

ぽつりぽつりと言うサスケは、本当に元気がなくて、自分の腕を顔の上において言った

「悪い」
「・・・」
「一人にさせて、悪かった」
「・・・」
「怖いのは、オレだけじゃねぇのに」

涙が零れた
自分の弱さを認めたサスケは小さく頼りなかった


だけど誰よりも何よりも愛しかった



守ってもらうのではなく、守りたいと思った
サスケは悪くない
今まで全部頼って支えてもらって甘えてたのは私だ


「まも、るよ」
「ん?」
「これからは私が守って支えて助けてあげるから」
「・・・」
「何も心配しないで。あなたの傍には私がいる」

そして私達は小さくすすり泣いた
そんなことを言いながらも、心にある不安は消えなくて、苦しかった





いつか、必ず笑顔で守ってあげられる日が来るから、それまで





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