だから、嘘つかなくていいよ。
これからは同じ、どろどろのぐちゃぐちゃでいよう。
一面に広がる血、血、血。
あれ?なんでだろう。さっきまではこんなに出てなかったのに。あれ?私、殺しちゃった?
どうしようもなかった。
追いかけてくるその人をどうにかしたかった。とにかく、逃げた。逃げて、逃げて、逃げたけど、無理だった。怖かった。助けて、総悟って声にならない声で言ってみたけど、そんなのもちろん通じなかった。どうしようもなく追い詰められて(言い訳だね)近くにあったもので殴った。とりあえず、殴った。何で殴ったかも覚えていない。とりあえず無我夢中で殴った。その人は(人?)うがっ…っと一言発して倒れた。私は逃げた。怖くて、怖くて、とりあえず逃げた。でも、後から考えて、これっていけないことだと思って。救急車とか色々考えたけど、とりあえず様子を見に行こうと思って、見に行ったら、
血。
さっきまで、こんな血なんてなかったのに。周り一面に広がる血、血、血。
そして、開く瞳。
「え…」
「お前、よくも…」
血でまみれた手が、私の足をつかむ。
「や…やだ…」
「死ね…お前も…」
「やだ…やだ…」
この人はもう今にも死にそうだった。なのに、その腕にはしっかりと力があって私は逃げられなくて、ただ引きずられた。
「やだ、やだ、やだ、そ…総悟!」
ぶしゅっ
ぼたぼたぼた
顔、顔に、顔に血が。
降りかかった。鉄のにおい、味。
そして後ろには、総悟。
「そ…総悟…。」
「さん、大丈夫ですかィ?」
「え、あ、私…殺して…。」
「あなたは殺ってませんよ、さん。人は、あんなんじゃ死にませんでさァ。」
「え、じゃ…だ…」
「オレが殺ったんでさァ、さん。」
「え…?」
「さんの心の声が聞こえちまったもんで。」
「……ご…ごめ、んね。」
「なんで謝るんですかィ?」
「総悟が…」
「オレは、全然大丈夫ですぜ?」
「総悟…」
「オレは、人殺しなんですから。」
総悟はそう言って微笑した。ごめん、ごめんね総悟。そんなこと言わせて、ごめん。
「人なんて、何百、何千と殺しましたさ。」
「総悟…」
「怖いですかィ?さん。」
「総悟…」
「見て下せェ。血ですぜ?そこらじゅう血でいっぱいでさァ。こんなたくさんの血、さんは見たことないんじゃないですかィ?」
「総悟…」
「すいません、斬り方が悪かったもんで、さんにもかかっちまいやしたね。」
「総悟…」
「知ってましたかィ?血って、なかなかとれねぇんですぜ。だから、たくさん、たくさん斬ってきたヤツなんてのは、もう血がへばりついちまって…。」
「総悟、大好きよ。」
私は、抱きついた。総悟に、思い切り。総悟のそんな自嘲した顔なんて、それ以上、見たくなかったし、見れなかった。
「そんなことすると、オレみたいに血がへばりついちゃいますぜ?」
「総悟に、血なんて、へばりついてないよ。」
「…よく見てくだせェ、さん。こんなにたくさん、いや、オレはこんなのちっぽけなほどの血を浴びてきたんでさァ。」
「私、総悟が好き。」
「一日に二回も言ってもらえるなんて、オレは幸せもんですねェ。」
「総悟のにおいも、気持ちも、腕も、服も、髪も、おもしろいところも、優しいところも、その変な口調も、なにもかも、ひっくるめて大好きなんだよ。」
「…」
「総悟の全部が好き。助けてくれてありがとう。」
「…本当、さんには敵いませんでさァ。」
そして、やっと総悟は私を抱きしめ返してくれた。だから、だから、
「だから、嘘つかなくていいよ。」
「…!」
「私、殺しちゃったんでしょ?」
「…さん。」
「さっき見つけたの。血がついたコンクリート。無我夢中に手に取ったものがきっとそれだったんだね。」
「でも、さっき殺ったのは、オレでさァ。」
「あの人は、放っておいても死んでた。総悟は、あの人を楽にしてあげただけ。」
「…でも、さんが殺らなくても、オレが殺ってましたぜ。」
「そんなことないよ。総悟は、もっと違う方法を見つけてた。」
「…さん、大丈夫ですかィ?」
「大丈夫よ、平気。でも、ちょっと怖い、かな。」
私の手は震えてた。こびりついた血。私の手に、顔に、べっとりと。
「総悟…私を逮捕する?」
「さんは正当防衛をしたまででさァ。オレが、証人でさァ。」
「それは、心強いね。」
「さん。」
総悟は急に真面目な声になった。その瞬間に唇が重なり合う。軽く、触れ合う。
「…すいません。オレが、もっと早く、来ていれば…。」
「なんで謝るの?謝るのは私のほうだよ。悲しい顔、させちゃってごめんね?」
「…それは、男が言う台詞でさァ。さん。」
強く、強く抱きしめあう。
ねぇ総悟。私、本当は殺したかったのかもしれない。総悟と同じところにいたかったのかもしれない。
ねぇ総悟。ここは寂しいところだね。確かに、とれない血だ。洗っても洗っても、あの色や、においは消えない。つかまれた足首は、あんなに強く握られたと思ったのに、少しも跡なんて残っちゃいなかった。でも残ってる。残像。あの血眼の目。こっちを睨んで、恨んで。
ねぇ総悟。あなたもああゆう目を向けられたことがあるの?そのときあなたはどうしたの?私は、ただひたすらに振り払うことしかできなかった。
これからは同じ、どろどろのぐちゃぐちゃでいよう。
"I am the same from now on, and there will be it with muddy squishiness." The end...