オネエサン、
さようなら、バイバイ。私は貴方を愛してる。
朝かな。
朝だろうな。小鳥のさえずりに…どっかの目覚まし時計の音。そして、もう一つのぬくもり。
「出夢?」
「おはよう、オネエサン。」
「あのね…。」
ここは私の家。
いっくんと同じ骨董アパートで(家賃を聞いて引っ越した)部屋には布団一枚がしいてあって、そこには私と、出夢。
「何度も言ってるけど、布団に潜り込むのやめようよ。」
「なんでー?」
なんでってそりゃ…一緒に寝たならまだいいけど、朝起きた時突然目の前に出夢の顔なんて…純情な乙女なら誰でもびっくりしますよ!って素直にそのまま言ってやりたかったけど、さすがにそれは恥しかった。しばらくそうやって考えていたら出夢は心配そうな顔になった。
「オネエサンもしかして僕のこと嫌いなのー?」
あぁ、可愛い。本人の前ではとても言えないけど。(出夢は何故か可愛いというと腹を立てた。多分男と見てもらえてないと思うんだろう。)
私が出夢を嫌い?そんなわけないじゃないか。私は否定の意味を込めて出夢に抱きついた。
「そんなわけないじゃない。」
「そうかな?じゃあ僕は朝ここに寝てもいいよねー?」
あぁなんなんだ、その上目遣い。可愛い可愛い可愛すぎる。妹にしたいな。(あぁ言ってみたい。けど言ったら殺されること間違いない。)
「でもそれとこれとは話が別っていうか。」
「同じだよ。」
と、出夢は私の手をとった。口は笑っているけど目が笑ってない。
「同じじゃないよ。」
「同じ。」
「同じ…?」
「同じ。」
「同じかな?」
「同じ。」
「同じ…。」
「同じ。」
「…同じなのかもね。」
結局は負けてしまう。私がしぶしぶ承知すると出夢の顔は一気に明るくなった。
「やったー!」
「でも結構心臓に悪いよ。私がショック死しちゃったらどうすんの。」
「それは嫌だなあ。でももしそうなったら、一緒に死んであげるよ。」
「…それは嬉しいのかな?どうせ一緒に寝るなら前の日から一緒に寝れば大丈夫なのに。」
「それはオネエサンの身を案じてるんだよ。夜から一緒なんて僕何しちゃうか分かんないじゃーん!」
「それはどっちの意味かな?」
「ギャハハ、あえてどっちも!?」
「そうかあ。」
「それでもいいってんなら僕は夜から来るよ。」
「いや、朝からでいいや。」
「ギャハハ、オネエサン冷たーい!そこは殺されてもいいぐらいの愛を訴えようよ!」
「私は出夢に殺されてもいいよ。ただ、私を殺した後の出夢が心配なだけ。」
それを言うと出夢は黙った。そして出夢らしくない静かな笑みをこぼした。
「オネエサン優しいなぁ。」
「愛があるからだよ。」
「オネエサン愛してる!」
と、また出夢らしい笑顔に戻り私を力いっぱい抱きしめた。
「出夢…嬉しいけど骨が折れちゃう。」
「うん、ごめんねオネエサン。」
「いいよ、出夢。」
私たちはしばらく抱き合ったままでいた。すると出夢が(そういうところ切り替えが早いのは出夢のほうだ)そっと手を離して起き上がった。
「じゃあそろそろ朝ごはん作るよ。」
「あー…いつもありがとう。」
そう、毎朝出夢は布団に入る代わりに朝ごはんを作ってくれるのだ。私は家事全般、何もかも苦手なのでそれをみかねた出夢がご飯を作ってくれた。それまで朝ごはんなんて食べてなかったけど(朝から炊事なんてありえない!)出夢のおかげでいい食生活を送れている。(朝ごはんだけだけど)
いつもたまりにたまっている食器を洗ってから…あれ?
「出夢、食器もう洗ったの?」
「あぁ、布団に入る前に洗ったよ。」
「そうなんだ…。」
「オネエサン知らなかったの?こんな古いアパートだったら気配ぐらい簡単に読み取れるでしょ。」
「わかんなかった。」
「大丈夫?心配だなー。だからここのアパートは駄目だって言ったんだ。」
「大丈夫だよ。こんな骨董アパートにどろぼうなんて入らないよ。」
「どろぼうならいいけど、オネエサンは可愛いんだから。ストーカーが来たらどうするの。」
「その時はいっくんが助けてくれるよ。」
「頼りないよ。」
「失礼じゃない?」
「まぁその時は僕が助けに行くさ。」
「わざわざ嬉しいな。」
「はい、ご飯。」
今のくだらない話(言ったら怒られそう)の間に出夢はちゃっちゃと素敵な朝ごはんを作り上げていた。
「うわー、おいしそう!」
「まーね。」
「でもなんかいつもに増して豪華じゃない?」
「…そうかな。」
「うん。」
「ま、冷めないうちに食べよう。」
「うん、そだね。」
いただきます、と手を合わせてご飯を食べる。
私はこの雰囲気が好きだ。出夢の作る朝食のにおい。朝の清々しい空気。お箸と茶碗がぶつかる音。なんだかとても幸せになれる。
「オネエサン。」
「何?」
「今日一日、付き合ってくれないかな?」
「うーん…別にいいよ。」
「ありがと!」
なんだか変だ。妙にしおらしい。おしとやかっていうか…いつものあの強引さはどこにいったのだろう。
そんなことを考えながらも私はいっくんにあやまって(大学が一緒なので迎えに来てくれる)今日一日出夢に付き合うことにした。
付き合ってとか言うからどこかに行くのかと思ったら、出夢はずっと私の家にいた。ずっと、今日一日ここにいるらしい。布団をしいてと駄々をこねるので仕方なくしいてやると、腕をぐいっと引き寄せられて、結局、朝のように二人で布団に入った。そういえば、出夢と昼寝をするのは初めてかもしれない。
「こんな早くから一緒に寝て大丈夫なの?」
「我慢するよ。オネエサンのためだからね!」
「ありがとう。」
ぎゅうっと抱きしめあう。今度はさっきほど苦しくはない。おかしい。なにか、変だ。
「ねぇ、出夢どうかしたの?」
「んー?なんで?」
「なんとなく…もしかして話したいことがあるとか?あ、私に隠し事とか!」
「ギャハハ、オネエサンに見破られるようになっちゃうなんて、僕ももう末期かな。」
「え、本当に?何なのよー、言いなさい。」
「嫌だなー。」
「言って。」
「えー。」
「言いなさい。」
「オネエサン、」
「何?」
「愛してる。」
珍しかった。出夢が茶化す様子もなく、目を見て、しかも真剣な目で、私の目を見て、言った。
「愛してるよ、世界で一番。離れたくなんか、ない。」
今度は出夢は私を強く抱き寄せて顔が見えないように、顔をうずめて言った。
変だ、様子がおかしい。
「どうしちゃったの?出夢…私も、世界で一番、出夢が好きだよ?」
「オネエサン、僕、死ぬかもしれない。」
死…
「な、何言ってんの!出夢は死なないよ?」
「…今回はね、ちょっと、嫌な予感がするんだよねー。」
「何?何をするの?」
「戯言使いのお兄さんと一緒に…ちょっと、ね。」
「やめてよ…なんでそんな、し、死んじゃうような、危ないことするの?」
「僕等の世界に決着をつけないといけないんだよ、オネエサン。」
「そんなの…しなくていいよ。決着なんていらないじゃん。」
「いるんだ。もう、その時が近づいてるんだ。」
「でもなんで出夢が!」
「オネエサン、僕は世界を守るんだ。分かってくれるよね?」
「そんなの…」
「今の僕すごいかっこよくない?ギャハハ、オネエサン。僕はね、なんだかんだいって好きなんだ。結局、この、汚らしい、憎悪と悲しみと怒りが入り混じったこの世界が。だって、オネエサンと出会えたのは、この世界があったからなんだよ?」
「…。」
「愛してる。世界で一番、誰よりも。」
そんな、そんなそんなそんなそんな。そんな言葉なんていらないよ。なんで死ぬとか言うの?なんでそんな事言うの?私を置いて、死ぬの?出夢は、私を置いていなくなるの?世界のために?愛と、平和のために?そんなの、嬉しくない。全然、嬉しくないよ。出夢、私のために、生きてよ。
「嫌だなあ…。」
「オネエサン、愛してる。」
出夢は涙の止まらない私をただ抱きしめて、ずっと愛してると囁き続けた。出夢にとってのつぐないだったのかもしれない。今でも木霊する、出夢の声。
さようなら、バイバイ。私は貴方を愛してる。
"Yea bye-bye. I love you." The end...