『ありがとう』
違う、そんな言葉が聞きたかったわけじゃないわ
「あついわー」
「もうすぐ夏だからなー」
「アイスが食べたいわね」
「…買ってくれば?」
「女の子一人で行かせる気ー!?」
「…へいへい、ついて行きますよ」
シカマルはしぶしぶベンチから立ち上がった
今日はチョウジがいない
たしか食い過ぎでお腹壊したとか
いつもならそんなことでお腹を壊したりしないのに
後でお見舞いにでも行ってやるかな
「ねぇシカマル、後でお見舞い行きましょうよ」
「あ?別にいいけど…」
「じゃあ何買う?」
「今あいつに食い物はタブーだろ」
私の手に取ったポテトチップスを見て言うシカマル
「それもそうか…じゃあ何?花とか?」
「…それもなぁ…」
「難しいわね。あ、私はこのアイスにするわー」
そういって一つ冷凍庫から取り出した
「おばちゃん、これちょーだい」
「はい、どうぞ」
お金を渡すとシールをアイスに貼ってくれた
「まぁ、たまにはこういうのもいいんじゃない」
そう言って手に取った知恵の輪
「あ?知恵の輪?こんなん喜ぶのかよ」
「だぁーっていいじゃない。チョージももう少し頭働かせなきゃ」
そう言って知恵の輪も買った
そして元のベンチへ戻って来ると
楽しそうに笑う声
いつものように振り返るとそこには知った顔が三つ
私はごくりと息を飲み、足で勢いよく地面を蹴って走り出した
「サスケくーんッ」
私が飛びつけばサスケ君は(気配分かってるくせに)少しよろけてそっと支えてくれた
「な、何してるのよ!いのブタ!離れなさいよ!」
「うるさいわねー」
そっと香るシャンプーのにおいは懐かしかった
さくらのぎゃーぎゃーと喚く声も懐かしかった
ナルトのむっと膨れたいじけ顔も懐かしかった
私はそっとサスケ君から離れるとさくらに言い返した
「何よデコリーン。今日は暑いから光ってるわよ。眩しいわー」
「な、な、」
言い返せないでたじろぐさくらは可愛い
「うるさいわね、いのブタ!行きましょう、サスケ君!」
「え、オレは?」
サスケ君はさくらから無理矢理引っ張られ、ナルトはその後を慌ててついて行った
その微笑ましい光景をしばらく見た後、私はシカマルのいるベンチへ戻った
戻れば、さっき私が買ったアイスをシカマルが舐めている
「何してんのよー!」
「お前があっち行ってる間に溶けていってたんだよ、おら」
そう言ってずぼっと口の中にアイスを突っ込まれた
口の中が冷たい
「んひょ、あひょ、ひょ」
「あ?」
シカマルはわざとらしく耳に手を当てて笑った
「もぉー、冷たいじゃない」
「お前がうるせぇから塞いだんだよ」
「失礼ねー」
しばらく無言でペロペロとアイスを舐めた
「…」
「…」
「いつまで、どうするつもりなんだよ」
「…知らないわ、そんなの」
「…そんなんでいいのかよ」
「…きっと、もうすぐ壊れるわ」
「あ?どういうことだ」
「そのうち分かるわー」
シカマルはそれ以上問いただそうとはしなかった
ただ何かを考えていた
「チョージの所へ行きましょー」
私はベンチから立ち上がり、笑顔で言った
チョージは思いのほか元気そうで、果物を食べまくっていた
私が買った知恵の輪を渡すと不思議そうに見て、 食べれるの? と訊いた
私もシカマルも思わずふき出して、シカマルは丁寧にやり方を教えてあげてた
「それじゃ」
「おう」
いつものあいさつ
短いのは、これからもずっと会う証拠
私はシカマルと別れたその足である人の家へ向かった
ピンポーンと押すとその音は悲しく響いた
「はい」
「私よ、いのちゃーん」
「…」
無言で彼はそっとドアを開けた
「何だよ」
私は当たり前のように家に上がり、その何もないスッキリとした部屋に腰を下ろした
「暑くて、外」
「…もう夕方だ、涼しい」
適当な口実もすぐにバレてしまい、私はサスケ君の顔を見た
「不安になっただけよー」
「…」
「そんな顔してるから」
抱き合った
強く、強く
弱かった、私たちは
いつまでも、抜け出せない
「行くんでしょー」
「…悪い」
「なんで謝るのよ。前から言ってたじゃない」
「…」
「生きていてくれればいいわー」
「…」
「なーんて、嘘だけどね」
笑うと涙がこぼれた
こんなに涙が溜まってたなんて
分かってたら、笑ったりなんかしなかったのに
「悪い」
サスケ君は抱きしめる力を強めた
私が泣いていると分かったのだろう
どうすればいいのか分からない
いつか来るとは知っていた
だけど、今日とは知らなかった
でも、薄々気づいてた
悲しそうに笑う彼を見て
「どうしたらいいの」
「…」
「私、どうしたらいいのよ」
一度泣いたら止まらない
驚く程に零れ落ちる涙
「シカマルが、いる」
「そんなの…」
そんなこと言わないで欲しかった
いつまでも好きでいればいいって言って欲しかった
もう、好きでいちゃいけないという返事だった
「そんなこと、できないわ」
「シカマルはお前が好きだ」
そんなの言わないで
私が好きなのは誰か知ってるじゃない
「私が好きなのは、サスケ君よ」
いつものように、知ってるって言ってよ
しゃっくりをあげて泣いた
言い終わった瞬間崩れ落ちた
サスケ君は一生懸命支えてくれてた
ごめんね、重いのに
「オレもだ」
そう言ってサスケ君はまた強く抱きしめた
今度は背中に何か冷たいものを感じた
泣いているんだ、貴方も
結局は、一緒
いつも
夜になった
夜は私が作ったご飯を二人で食べた
少し失敗したけど、美味しそうに食べてくれた
最初で最後の一緒の夜ご飯になるのかしら
夜中になった
サスケ君と布団に入っていたけど、ごそごそと動き出した
きちんとリュックが用意されてて、サスケ君はそれをからった
私は寝たふりをしていた
見たくなかった
そしてサスケ君は私に近づいてそっとキスをして「ありがとう」と言った
ドアが閉まる音が聞こえた
がちゃん
何回も頭の中で木霊した
ありがとう
がちゃん
私はやっぱり泣いた
でもサスケ君に聞こえないようにそっと
声を殺して泣いた
するともう一度ドアが、がちゃんとなった
でも私は顔を上げなかった
誰か知っていたから
「帰るぞ」
そう言って私をおぶってくれたその背中は温かくて大きかった
「背中、濡れるわよー」
「構わねぇよ、んなこと気にするなんてお前らしくねーな。いつもなら鼻水までかむくせに」
「うるさいわよ馬鹿ー」
「へいへい」
悔しい
分かってるから、悔しい
シカマルに連絡したのはサスケ君だ
最後まで、余計なお世話
結局はこうやって、私は貴方を忘れられないままこれからもずっと過ごしていくんだ
変わらない運命と共に